
次ロットの製作に取り掛かりました。こちらはカリフォルニアの方からのオーダーテナーです。サイドバックにこちらのハワイアンミロを使います。トップは最高級北米杉です。ハワイアンミロはパシフィックローズと俗名で呼ばれたりしますがローズほど重くなくてウエスタンレッドシダーとの相性も良好。赤味を帯びた色合いの木なのでトップにシンカーレッドウッドを使ってもビジュアル的には面白いかも知れませんね。北アメリカ大陸の木と同じく米国領ハワイ島の木で米国に向けて日本人が作るって考えるとなんか不思議。
そうそう。先週末に作り始めたAncestor's入門機モデルのEN360ですが木曜に塗装に入りました。装飾が一切ない上にジョイント方法を変えたので一手間減ったおかげであっという間に木工が終わってしまいました。バインディングとヒールキャップには縮杢の栃を使ってちょっとだけお洒落に。個人製作家のウクレレをちょっと使ってみたいなと考えてるユーザーに向けたモデルです。マーティンで言うところのスタイル0かスタイル1あたりのポジション。当工房の働き馬的なモデルにして行けたら良いなと考えてます。

話は戻って次ロットの製材。写真は接ぎ合わせのシーンです。接ぎ合わせというのはブックマッチした板と板を接着する工程のことです。ブックマッチも念の為にご説明しますと、木の柄が左右対称になるように本を開いたような接ぎ合わせにすることです。なので接着面を両サイドからハタガネでがっしりと締め付けます。この接ぎ合わせ台はこれまで使ってきたものがだいぶくたびれてきたので昨年新調しました。
ボディラインの見直し

ジョイント方法の見直しにともなってボディラインのマイナーチェンジを行いました。それに伴って各ボディタイプごとの対応スケールとジョイント位置が以下のように変わります。12フレットジョイントに変わるものがあります。
Type1
[使用可能スケール]
345mm/12fret joint
360mm/12fret joint
375mm/14fret joint
Type2
【使用可能スケール】
360mm/12fret joint
375mm/14fret joint
382mm/14fret joint
Type3
【使用可能スケール】
382mm/12fret joint
392mm/14fret joint
400mm/14fret joint

これまではギターと同じ工法のアリ溝ジョイントでがっしりとボディとネックを接続していました。ずっとその点については改善すべきだと考えてました。理由は「ウクレレにそこまで強固なジョイントをする必要がそもそもあるのか」という疑問をずっと持っていたからです。ギターみたいに重いボディに長い棹を接続するなら必要なやり方ですが300g前後の軽くて小さいボディに200mmちょっとの棹を繋ぐだけならダボで十分だと感じてはいました。そのことを仲間のビルダーに相談してみたところ「うちもダボですよ」と言う工房が結構多い。接合面をきっちり同じRで整えて動かないようにダボで固定して接着するという流れに変わるので、これまでのようにアリミゾ型のオスとメスをを加工する手間は一気に減ります。

アリ溝加工の様子
ジグでトリミング後に鑿で微調整

タイプ1
左が旧、右が新。ご覧の通りこれまでは接合面をジョイント部の45mmだけ平らにした上でアリ溝加工を施してとにかく頑丈さを求めた設計でした。言ってみればプレハブを鉄筋コンクリートで作ってるようなもので必要過剰な状態でした。これを曲線のまま設置してダボで軽く接合するだけの設計に変えます。そのかわり接着剤をタイトボンド(赤)からより強力なタイトボンド(緑)に変更。次ロット以降は全てこの工法でいきます。

実は今回一気に作ったEN360/Type1がこの工法採用の初号機です。

一番雰囲気が変わったのがこのタイプ2です。どっしり落ち着いた印象になりました。タイプ1よりも横幅が一回り大きいので低音に膨らみがあります。ショップオーダーのほとんどがタイプ1、タイプ3でこちらのタイプ2があまり出回らないためかタイプ2をオーダーする方が結構多いです。タイプ1がコロコロとした音になるのに対して音がよく伸びるのでローズサイドバックであれば実はタイプ2がおすすめだったりします。

タイプ3もより落ち着いた印象になりました。旧デザインは怒肩です。十年前の初期のモデルは左の形の上にさらにボトムオーナメントがめっちゃくちゃとんがってましたよね。今思うとあのデザインは尖りすぎていたと感じてしまう。今はむしろ飾りなんて一切ないシンプル極まりないデザインこそ至高みたいな志向(シャレじゃないですよ)でウクレレ全体の雰囲気もケバケバしくなくてモノトーンで統一感があるのが良いなと思うようになってます。
最近の志向の変化はよく見てるアイルランドのローデンギターのジョージのインタビュー動画の影響でしょうか。外観は丸く、音も丸くなっていったら良いなと思っていてジョージの話を聞いていると彼の放っている柔らかい雰囲気がそのままギターになってるなと感じます。てことはもっと丸い人間にならないと丸い音にならないのかな…いや、でも丸い人間ってどういう…?雰囲気が丸い人って実直さと努力の積み重ねをベースに相手に対して柔軟さがあるように感じます。1970年代、日本を訪れた若い頃の話とか一度会社を畳んだ時の話とかジョージのエピソードを色々聞いてるとそう感じるんです。きっと丸い雰囲気って色んな経験の積み重ねなんだろうなって。ジョージがよくトップ材に使うシダーやシンカーレッドウッド、たまに勧めているクラロウォルナットサイドバックが深くて分離の良いギターサウンドにどう寄与しているのか。そこのあたりにも注目して話を聞くとこれまた面白いです。
日本の伝統工具好きなジョージ
シトカ&ローズについて説明するジョージ
6タイプのローデンギター試奏動画。最初に出てくるシンカーレッドウッドとココボロのF50がめちゃめちゃリッチなトーン。シトカとコアのギターのライトな鳴り方も結構好きです。これがそのままウクレレにとっても同様のサウンドキャラになるとは言えませんが木材の組み合わせによる傾向はなんとなく掴めます。

ボディライン変更に伴ってモールドも調整
あとがき

今年前半戦で製材済みのシダーやローズ、バインディング材を結構使ったのでまた補充。これでしばらく行けそうです。貴重なシンカーレッドウッドのストックはあと数セットになりました。ある時にしかないのでご検討中の方はお早めに。

和室で同じポーズをとる次女&くーちゃん(猫)
そろそろまた暑い暑い季節がやってきますね。岐阜も6月に入ると真夏日がちらほら続くようになります。すでに工房内も日中は30℃越えかつ多湿な毎日です。楽器も湿気で音が曇ったりします。ケースに除湿剤、指板にオレンジオイル塗って湿気の流入を防ぐなどして大事にしてやってください。日本は高温多湿な時期と寒くカラッカラに乾燥する冬の超エクストリームな気候。ウクレレにとってもかなり厳しい環境の国なのかも知れませんね。ウクレレともどもご自愛ください。
では今週もお疲れ様でした。
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t-iguchi (火曜日, 20 5月 2025 22:20)
今回のブログを拝見して今後の製作方針について質問させてください
ネックのジョイント位置が360スケールの場合、これまでの14フレットジョイントから12フレットジョイントに変更されるようですね
私は現在360スケールでスタイル1のシダーローズをオーダーさせていただいて、製作待ち状態ですので新旧で音がどの様に変わるのか気になります
演奏性だけなら14フレットジョイントの方が良いと思いますが、あえて12フレットジョイントに変更する意図があると思いますので教えて下さい
よろしくお願いします�
坂井 (火曜日, 20 5月 2025 22:46)
井口さんこんばんは。オーダーありがとうございます。今回のジョイント方法変更に伴ってボディシェイプがわずかに変わりました。変わった部分はまさにジョイント部分の範囲です。平らにジョイントしていた部分がカーブしてジョイントするラインに変わった分だけ膨らみました。その結果、ブリッジの位置がこれまでよりも上に移動することになりスタイル1、360においても恐らく音像が多少変わると予想して12フレットジョイントに変更しました。果たしてどうなるかを見極めるために今回のEN360初号機ではあえて14フレットジョイントにしています。結果を踏まえてまたご相談させて頂きたいと思います。ご希望頂ければ12でも14でもどちらでも可能ですのでご安心ください。