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信州野営旅 

今月の野営旅は大好きな信州八ヶ岳方面を一人旅。


まず中山道と甲州街道が出会う町、諏訪へやって参りました。古くから旅人で賑わう街道筋には有名な酒蔵がいくつも立ち並んでいます。上諏訪に立ち寄ったのもそれが目的。諏訪の老舗酒蔵で銘酒「真澄」をゲットすることであります。諏訪大社のご宝物「真澄の鏡」を酒名に冠する天下の銘酒。寛文二年創業、358年の歴史。今夜の野営の友はこの真澄と決めておりました。

 

 

 

真澄、ありました。「純米吟醸辛口一本」全日本日本酒鑑評会2019で金賞、全国燗酒コンテスト2018で金賞、フランスの日本酒コンクールであるKURA MASTER2017で金賞…など実力は折り紙付の一本。あまりに有名な酒ですが実はまだ呑んだことがなかった。これは直接諏訪の蔵元まで行って購入するぞと決めておりました。余談ですが「折り紙付」とは江戸時代からの刀剣の鑑定書の折り紙を指した言葉ですね。それはさておきこの「真澄」の宮坂醸造所がある上諏訪、甲州街道沿いにはわずか500mの間に諏訪五蔵と呼ばれる五軒の銘蔵が居並んでいます。明治二年創業の信州舞姫、寛政元年創業の麗人、宝暦六年創業の本金、横笛、そして寛文二年(1662)年創業の真澄。いずれの酒蔵も霧ヶ峰に磨かれた伏流水を使った軟水の酒。軽やかできめ細かい味わい。灘の酒に使われる宮水は反対に中硬水でキレのある輪郭の酒。今回はあまり呑んだことがない軟水仕込み。霧ヶ峰の細水で作った酒、いっぺん味わってみたかったんですよ。

 

 

 

酒蔵を後にして車をその酒の仕込み水の源、霧ヶ峰へと走らせました。向かったのは車山肩駐車場。車山は霧ヶ峰の最高峰でリフトで簡単に山頂に行くこともできるし、車山肩からのんびりと登って行くコースもあります。夏にはニッコウキスゲで有名ですね。登山と言うほどのものでもなく比較的なだらかなトレッキングコースで好天で風もない日であれば普段着でも歩けます(ウインドブレーカーはあったほうがいいと思います)。それでも周囲には壮大な景色が一望できる素晴らしいコースがこの肩コース。

 

 

 

駐車場から3分ほど歩いて振り返ってみると北に穂高連峰の連なりが見えます。晩秋ともあって風が強いのでウインドブレーカーを羽織りました。枯草の山並みが幾重にもスクロールして壮大なスケールです。

 

 

 

霧ヶ峰に伸びるビーナスライン。点々と走る車。遠望しっぱなしの天空散歩です。体力に自信がなくても全然大丈夫なコースですので皆様もぜひ。あ、でも防風・防寒具は必須ですよ。

 

 

 

私にとっては母なる山塊。右から西岳、権現岳、阿弥陀岳、赤岳、横岳、硫黄岳、天狗岳。南八ヶ岳連峰の連なりです。この稜線はこれまで何度か歩いています。去年は北アルプスをテント背負って雲ノ平まで歩いたり黒部五郎岳に登ったりしましたがやっぱり一番好きなのは八ヶ岳です。富士山とはまた違った趣の雄大な裾野がほんとに綺麗で何度見てもうっとりします。権現岳のてっぺんにはいつからあるのか分からないほど古い鉄剣が突き立っているんですよ。実際見たときにはかなり興奮しました。

 

 

30分ほど散策して駐車場まで戻って参りました。ソフトクリーム食べたかったけど人も多そうなので我慢して出発です。こんなご時世でなければ何の気兼ねもなく入っていけるんですが今はね。諸々注意しながらの旅です。

 

 

 

北八ヶ岳の北の端に鎮座する日本百名山、蓼科山。ここも登りましたが山頂は全部岩でびっくりしました。広ーい山頂は見渡す限りの岩・岩・岩。山頂の真ん中に鳥居があったのでお参りしたのを思い出します。ビーナスラインはこのまま蓼科山の麓の白樺湖まで降りて行きます。あ、そうそう今回の記事の写真は全部標準単焦点レンズ一本で撮ったものなのでほぼ人の視野そのまんまの映像ですよ。

 

 

 

秋の霧ヶ峰は枯れ色です。逆光に輝く芒の穂群が綺麗。一人旅はここぞと思った景色に出会うとその都度立ち止まってシャッターを切ることができるのが良いですね。仲間連れだとそうはいきませんが。

 

 

 

今月のキャンプは八ヶ岳東麓にある八千穂高原駒出池キャンプ場に行って参りました。駒出池キャンプ場はこれまで三度ほど利用させて頂きました。池周りのフリーサイトが人気です。駒出池キャンプ場は広大なオートサイトがあり、日本一の白樺林で有名な八千穂レイクまで抜ける散策路の起点がキャンプ場内にあります。二年ぶりに訪れた今回はオートサイトを利用させて頂きました。

 

 

 

午後四時。受付を済ませて簡単な場内の説明を受けていざサイトへ。今年から運営が変わったのかな。だいぶ雰囲気が若くなった気がしました。薪が800円って高いな…。家から持参しておいて良かった。

 

 

 

こんなんなかったような。やっぱり雰囲気が若い。

 

 

 

設営を日没ぎりぎりアウト気味で済ませてさっそく焚き火です。気温は4度で霜月半ばの標高1285mにしてはあったかい夜。焚き火の炎で一気に周りの温度が上がります。

 

 

 

火持ちの良い岩手切炭の火起こし。焚き火→炭の火起こし→炭火料理の流れです。パチパチと爆ぜる焚き火と何とも言えない炭の香りにポッカポカ気分で暖まります。

 

 

鯵の開きも炭火で炙ると無茶苦茶旨いんですね。家のグリルで焼くのと何が違うんだろう。遠赤外線には変わりないと思うですがやっぱり炭火焼きの方が断然美味い。

 

 

 

続きまして炭火焼き料理は鳥のモモ肉を炙って岩塩をぱらりとまぶして頂きまして、その傍らに…いよっ!出ました、「真澄」さん!評判通りのまろやかさです。大吟醸じゃないのにこのきめ細かさは素晴らしいです。昼間歩いた霧ヶ峰の爽快な風が口の中に広がっていく…ような気がする。まろやかさの奥の方に薄っすらとしたキレがあると言うか、寛容さの中に切れ者の鳴りも秘めている酒なのかな。

 

 

 

鯵もモモ肉も旨いし諏訪の酒も美味い。あぁ最幸です…。


標高1285mの高原の夜空には満天の星空が瞬いています。下手くそゆえに星景写真はあえて撮りませんが。時折り日本鹿のきゅーんっという鳴き声が森の向こうで聞こえます。この孤独感、やっぱり良いです。

 

 

 

椎茸をまるっと炭火で。醤油を垂らしてかぶりつきます。何とも香ばしい。炭火台に対して椎茸二個。そこにお猪口一つ。この空間が好きなんだな。


キャンプと言ったら仲間とわいわい一つの焚き火を囲んでバーベキューで酒盛りのイメージじゃないですか。私の孤独野営の晩餐は至ってシンプルで、魚や旬の野菜を火で炙って食べるだけのことが多いです。そんなに量も食べないですし。

 

 

 

それと今回持ってきている食器は鉄鍋、お猪口に220ccコップと俎板とナイフと箸のみです。食器一色が鉄鍋に収まります。ガスバーナーなどの文明系は置いてきました。熱源は焚き火と炭火のみ。テントもなくタープ一枚とコット(簡易ベッド)と簡易椅子に冬用のシュラフ、焚き火台、炭火台、ランタン、アウトドアナイフで以上です。他の余計な道具は一切積んでません。なので積荷もコンテナ一つに薪バックのみ。この潔さと不便さを味わう心意気が外遊びの楽しさだと私は思います。二十年前の大学の頃よりキャンプを始めてからかなりの年月が経ちましたが最近はコロナで空前のキャンプブームのようで「グランピング」なるものも流行ってますね。リゾート的な豪華なキャンプ。そんな超快適お洒落空間、インスタ映え狙いキャンプも案外やってみたら楽しいのかも知れませんね(相当な費用がかかりそうですが)…。



 

ほろ酔い気分で午後11時就寝です。

     

 

午前7時

 

 

 

八千穂高原に朝がやって来ました。みんな湖畔サイトに張っているので山側のオートサイトは私だけです。こんな素敵な白樺サイトが奥まで延々と続いてるんですよ。今月いっぱいまで営業とのこと。予定が空いてるならぜひオススメしたいキャンプ場です。

 

 

 

気温は2度。でも冬用シュラフにシュラフカバーでぬくぬくな熟睡でした。このシュラフカバーが大切なんです。ふかふかなシュラフを体に密着させて熱を逃さないのと夜露や結露から守ってくれます。



オープンタープ泊は目覚めると真ん前に白樺の森の朝が広がって爽快な朝を文字通り体感できるのが素敵です。テント泊より自然がダイレクトで楽しいですよ。

 

 

スノーピークの「ペンタシールド」

 

これ一枚あれば快適な野営ができます。

 

 

 

朝も焚き火の準備からスタート。まずはモーラナイフで楢を小割りにしていきます。こうやってナイフを薪のてっぺんに当てて適当な棒か何かで叩き割るのをバトニングと言います。斧より正確に割れて案外早く薪割りできます。小割りにした薪を細かく毛羽立たせて火付きを良くします。これをフェザースティックって言うんです。何本か用意して置いて段々薪を太くしていけば焚き火が安定します。

 

 

育てた焚き火で湯を沸かす一連の動作だけでも楽しい。ガスバーナーでお湯作っちゃえばあっという間なんですけどね。こういう手間暇が野外の楽しみの一つなんですよ。

 

 

 

 

そんなこんなでやっと沸き上がった湯を挽きたての珈琲に注ぎます。すぐに立ち上がる湯気と珈琲の香りに癒やされます。

 

 

 

寒い朝ほどこの一杯が美味いったりゃありゃしない。

 

 

白樺フェチな私にはたまらんサイトです。

キャンプスタイルも人それぞれ。日常生活みたいにあれもこれも必要というのと反対に最低限の装備と焚き火だけで野営する楽しさが何か昔から好きなんですよ。単純に外で旨いもの食べて呑んで寝るだけなんですけど。それってけっこう現代人がどこかに置いてきた生きるためのシンプルな感性を呼び覚ます行為だと思うんです。何でもかんでもネットの仮想空間でやり取りする時代。みんなスマホの中の世界に夢中。それがもう当たり前の日常風景になってしまっていて何の疑念も抱かないで暮らしてしまっているけれども、ふと我に帰って考えたらこれってパラレルワールドなんじゃないかと思うような現代生活とは間反対な野遊びは「朝陽ってあったかいんだな」みたいな身をもってリアルな喜びを実感できる貴重な時間だと思います。リアル体験そのものでもある高度な感性行動である「楽器を弾く」という行為を支える仕事。それはやっぱり自然に根差すべきなんじゃないかとも思うんですよ。あ、偉そうにすんません…。

 

 

 

 

今朝のうどんは手打ち麺です。椎茸の旨味がじゅわーっと汁に溶け込んでいて美味この上なし。鍋底の利尻昆布がまたいいお出しを放出しています。この汁はほんとに美味かった。出来上がりに春菊を乗せて冬の旬の香り。何とも贅沢な気分になってニンマリしてしまいました。

 

 

      

柿の剥き方、あんまりよくわかってないんですが好物なんです。「柿が色付くと医者が青くなる」と言われるほどの健康果実ですよね。免疫力向上、美肌効果、口臭予防、腸内環境の美化…などなど食べない手はない果物の柿。今まさに旬であります。

 

 

 

心から打ち込める仕事や趣味があるってのはほんとに幸せだなぁなんて考えながら柿にかぶりつく。何でこんな美味いもんが木になってるんだろうとか意味不明なことも考えたりして…。




今朝の柿も甘くておいしい。

 


 

 

 

 

朝飯も済んでしばらくまったりと焚き火をしました。午前十時、そろそろ撤収開始です。

 

 

 

お昼前にキャンプ場を撤収しました。

 

 

向かったのはメルヘン街道沿いにある麦草峠の無料駐車場です。この道ももう少しで冬季閉鎖期間に入ります。今年は11月19日からの閉鎖予定です。何とかギリギリのタイミングで通れました。

 

 

 

車を停めてしばらく森の中を歩きます。北八ヶ岳独特のまるで北欧のような雰囲気が大好きです。コメツガやオオシラビソの森のミントの匂い。清冽な空気の中を歩くのって気持ちがいいですよね。

 

 

高見石小屋が見えて参りました。

 

この小屋の脇から岩場を登ると…

 

 

 

高見石から白駒池が見えます

 

 

この景色を眺めながら遅めのお昼です。

 

 

高見石から見えた白駒池まで降りてきました。

 

 

週末は観光客で賑わう白駒池ですが今日はひっそりとしています。

 

 

 

白駒の奥庭を通って

 

 

麦草峠まで戻って参りました。

 

麦草峠→丸山→高見石→白駒池→麦草峠

 

一周およそ5キロの山歩きでした。

 

 

北八ヶ岳をあとにして向かったのは

 

 

セイレンの新工房です。ついこの前引っ越したばかりでお邪魔するのもご迷惑かと思いましたが引っ越し祝いを手にお邪魔しました。向こうには文字通り紅く染まった赤岳とその右隣りには阿弥陀岳。何とも美しい場所です。

 

 

西の空を見やれば濃い山影の向こう、中央アルプスに沈んでいく夕日が綺麗です。はるか先には御嶽山の山影もうっすらと見えていますね。蓼科ってこんなにも名峰に囲まれた場所なんですね。素敵すぎる。

 

 

松本の前工房から移してきた木材や機械工具でびっしりの新工房。ここからまた新たに信治さんの作るウクレレが世界に羽ばたいていくんだと思うとワクワクします。引っ越しの片付けに忙しい最中、急に来ちゃって申し訳ないです。でもある意味でレアな始業前の状況を見れたわけで感激しました。

 

 

会うたびに色んな示唆を頂けることに感謝です。いや、別に具体的に何かを教えてもらうことはないんですよ。でもこの方が発してる空気がいつも刺激になるんです。次はこうしよう、あれもやってみたい。そんな好奇心とチャレンジ精神に私なりに負けないぞと静かな闘志を燃やしたり…。信州旅の〆にここに立ち寄ってまた自分の製作意欲を倍増させたわけでした。信治さん、まゆみさん今回もお世話になりました。また立ち寄らせて頂きます!

 

 

 

「信州野営旅」

 

ー完ー