The "Single-O" story

これはこれから時間をじっくりとかけて馬蹄ロゼッタに続く新シリーズを生み出していく過程を綴る記録である。過去最も理想的なサウンドを紡いでいたスタイル7Mの解体、マーチンのシングルオースタイルにリメイクすることから始める。まずは良い鳴り方をしている個体のメカニズムを念入りに調べ上げることから始め、今後はそれを元に馬蹄に続く新しいデザインのロゼッタを擁する新シリーズを開発していこうと思う。

「究極のウクレレを作りたい」

2012年の工房開業から二年後の2014年には現行モデルのボディデザインの雛型が完成しました。開発当時のモデルはタイのオータサンスタイルの名手アピラクと一緒に開発した12フレットジョイントコンサートのスタイル4コンサート、その後岸和田のオハナさん向けに14フレットジョイント396ミリのコンサートロングモデルのスタイル6コンサート、14フレットジョイント360ミリスケールのソプラノロングモデルのスタイル7を世に出していきました。さらに2015年には初の14フレット432ミリスケールテナーモデルのスタイル9を発売。2018年12月にマイナーチェンジ、馬蹄ロゼッタの開発、モデル名の変更を経て今に至っております。
特に、2014年から2015年にかけて製作したものはお客様から「ほんとに良く鳴るウクレレ」とお褒めのメールを何通も頂きました。そんなに褒めて頂けるのなら一本自分用に後学のために作ってみようと思い、当時の製作手法で作ったスタイル7Mがずっと工房にあります。6年、7年前のリアルタイムの自分には何故そんなに褒めてくれるのかよく理解していなかったのが本音でした。「何も考えずに普通に作っているだけなんだけどな」ぐらいにしか感じておらず、単純に高評価が続くことが嬉しかった。で、その頃のウクレレが何故、そんなに持て囃されたのかをやっと理解しだしたのがここ最近です。
2014年、2015年頃のものと今のものを比較すると何というか「カラッと」鳴ってるんですよ。経年変化でそうなったんじゃなくて、6年前の完成直後からこの鳴り方してたんです。つい最近まではホンジュラスマホガニーの材質の違いだとずっと考えていたんですがいよいよそのカラクリを知りたくて…ついにそのスタイル7Mを分解することにしたんです。まず指板を剥がし、ネックを抜く。その上でトップを剥がす。そしてその表板を穴が開くほど見て調べてみたんです。すると驚く発見がありました。ボディ外周は1.7ミリ、ブリッジプレートあたり(ブリッジ周辺)はなんと1.6ミリしかない。現行よりも0.2ミリも薄かったんです。つまりマホガニーの材質の違いではなく厚み自体、場所によってさらに薄いという構成があの生まれながらにしてヴィンテージサウンドを作らせていたんです。
過去の自分に教わるという不思議な体験。そんなことってあるんですね。もっと良くなろう、もっと高いところを目指そうとしていくと、いつの間にか違う場所に向かっていることに気がつかない。あれから7年後の僕はもしかしたら今、そんな状況に踏み込んでいたのかも。バラしてよかった。ただ、現行のウクレレ作りも後々何年か経過してからじゃないと真の評価は分からないのも事実で。光栄なことに、今年納品した個人オーダーについても何通も高評価メールを頂いているのは変わりないんです。あくまでも製作者本人が目指すヴィンテージサウンド、カラっとした鳴り方に舵を切りたいだけの話で。どちらかと言うと現行モデルのサウンドはかなり重厚なもので、よりギターライクなものになっている。それを元の路線に回帰させるべく見直して行きたいんですが製作手法がそもそも数年前までよりも遥かに複雑なものになっているので、そこを当時と同じくらいのさらに薄い表板の中に詰め込もうとすれば尚のこと大変さが増すわけですが…。これまでの経験からして表板が2.0ミリ以上あると「厚い」、1.8ミリから1.9ミリで「標準」、1.7以下で「薄い」といった感覚です。薄いと少ないパワーでも大きな音を出せる反面コシは弱くなる。厚い場合はその反対となる。
いかんせん理想とするサウンド作りのためにはロゼッタのタネの厚みをギリギリの1ミリ以内に押さえて象嵌し、表板の厚みを全体的にコンマ1か2ミリほど落とせればもっと良い結果が得られるはずという仮説が立ちました。

2021.10.12