· 

経験の仕分け作業

理想のフレットのために行動を起こしたその次は全モデルの見直しです。見直しというかもっと大きな視点で今ある6つのモデルを見直します。アピラクと相談しながら作り上げて行ったスタイル4のコンサートに始まった現行モデル6機種。その後スタイル4ソプラノ、スタイル7ソプラノロング、スタイル9テナー、スタイル6コンサートロング、最後にスタイル8セミテナーの順に脈絡なく増やしてきた結果、現在6つのモデルとなっています。そう…「脈絡なく」増えて来ました。だから全体的にブランドとしての音の方向性がバラバラです。共通点と言えば「私が作ったウクレレ」ってだけのことです。まぁどう作ればどんな音になるか分かってなければ方向性も何もなかったのが実際のところですが…。これから見直して行くのはまさにそこです。今まで積み上げてきた数少ない経験をもとに「音の仕分け」を行なっていきたいと思います。

 

 

 

 

 

これまで無秩序に増やして来た6モデル。五年以上の遠回りを経て今後の方向性作りの土台になるという意味においては決して無駄ではなかったと私自身は思いたい訳です…。それもこれもこれから結局どんなものを作るかにかかってますよね。今まで何度かマイナーチェンジを繰り返して来ましたが今回はフルモデルチェンジする機種もあるので労力が違います。フルモデルチェンジを行えばモールド(型枠)からまた作り直しになるしケース業者にも新しい型枠を作ってもらうことになるのでそこそこ大変です。モデルチェンジ後に確実に現行機種より良いものにできるビジョンがないといけません。半分賭けに近かったりして…。そこらへんは色んな過去の経験から答えを導き出すしかないですよね。



今まで多種多様に作ってきたわけですがその収穫と言うと例えば…
  1. 指板の厚みを3.5ミリから4.0ミリ厚に変えたときに起こる音の鳴りへの変化を知ったこと。弾き易さを優先するなら指板は3.5ミリ。
  2. フレットを極小のものからギターフレットまで色んなものを試して弾き心地の違いを実感したこと。結局どのフレットも一長一短あり。自分の欲しいフレットを直接メーカーに依頼した。
  3. バインディングをセルロイド材と木製のものと音質がどう変化するのかを知ったこと。ボディに完全に沿うようにアイロンで曲げる木製バインディングの方がそりゃ手間がかかる。でも木製バインディング(ローズウッド)を施したボディの鳴りはかなり硬質になる。柔らかなサウンドを得たければセルロイド製バインディングに分がある。
  4. ネック厚はナット位置、指板込みで15ミリを下回ると薄く感じる。16ミリだと標準。17ミリ以上は太く感じる。サウンドに変化はない。
  5. ボディ厚は55ミリから62ミリあたりを基準としてそれ以下にすると弾き手側によく響き、それ以上にすると聴き手側によく聴こえる。ボディ厚みの浅い深いはそのまま音の飛び方に影響する。
  6. サウンドホールは46ミリを基準にそれより小さくすればサスティンを多く含んだ響きになり、それより大きくすれば分かりやすい単調な響きに近くなる。ハワイのウクレレのサウンドホールは後者が多い。明るく抜けの良い響きは軽くて大きいボディに大きめのサウンドホールを備えていることに起因する。
  7. セットアップではナット、指板厚、フレット高、サドル高、ブリッジの弦止めからサドルまでの立ち上がり角度それぞれのバランスの持って行き方が重要。
  8. ボディはとにかく軽くする努力をする。ブレイシング含めて堅牢に作らない。軽く、緩く。表板ブリッジ周りが多少腹起きするくらいが理想。そこまで攻め切れば必ずラウドに鳴る。

そんなに手の内を明かしていいのかと思われるかも知れませんね。ボディ作りのノウハウは大方ここに書いたようなものです。でもそうやって作ったボディを活かすも殺すも7番目に書いたセットアップが肝心です。ここは経験しかない。


これまでの6モデルは一つ一つバラバラな個性ではあったけれども大きく分けて2つの特徴があります。それは…
  1. バランス良く鳴るモデル
  2. 2弦3弦の音圧が前にくるモデル
バランス良く鳴るモデルというのは1弦A音から3弦C音までの音圧のバランスが良いフラットな鳴り方をするモデル。均整が取れている。ピックアップを載せてもさほどイコライジングする必要もない。悪く言えばパンチに欠ける…。このタイプのモデルは主に14フレットジョイントのモデルに当てはまります。スタイル7とかスタイル6など。まんべんなく鳴り、扱いやすいサウンドが一番の売りです。
一方、中音域の音圧が前に出る2弦3弦の重厚なサウンドが一番に飛んでいく後者のモデルはその分1弦がかき消されるか引っ込んで聴こえるのでゲージを細くして音像をハッキリさせて浮かび上がらせたりする必要があります。これをそのまま電化してピックアップ載せてアンプから出力すると大変です。プリアンプは必須アイテムです…。こちらのタイプは12フレットジョイントのモデルに顕著な特徴でスタイル4ソプラノ、スタイル4コンサートがそれに当たります。中音域がとにかく厚いので生音で弾いての満足感はこちらに分があるようです。
今回のモデルチェンジではこの2つの音響特性を明確に分けようと思ってます。ラウドな鳴りが特徴の12フレットジョイントモデルとフラットな鳴りが特徴の14フレットジョイントモデル。ソプラノ、コンサートにそれぞれ2機種ずつです。スタイル7ソプラノロングとスタイル6コンサートについてはボディシェイプ、鳴り方ともに完成されているので留任。一方、12フレットジョイントモデルのスタイル4ソプラノとスタイル4コンサートはもう少し弾き易くしたいのと出過ぎ気味のミドルレンジを抑えるためにボディシェイプを見直すフルモデルチェンジ を敢行します。
  

こちらが今までのスタイル4ソプラノモデルです。肩幅が小さいため右手の置き場を確保しにくいという弱点がありました。

 

 

 

 

こう変わりました。一回り大きくなりました。ソプラノらしからぬどっしり感。きっとズドンっと鳴るでしょう。小さな横綱のような。それでいて可愛らしさもある。ウクレレってやっぱり基本はソプラノにあると思うんですよ。なんか難しいこと抜きに…単純にウクレレの魅力ここに極まれりって言う感じで。

 

 

 

 

 

 

スタイル4コンサートもこうなりました。左側が新しい方。これ撮った後にもう少し肩幅を小さくしましたが大方こんな感じ。アピラクと一緒に作った大切なモデルだけにこれをフルモデルチェンジするってのは色んな思いが交錯しました。でも…前に進みたい。一本に賭ける思いをさらに大きく膨らませて心機一転です。

 

 

 

 

 

今回のスタイル4のフルモデルチェンジはある部分では2015年頃の製作方法に戻すことになります。年月を経るごとに製作スキルが成長していると自分の中では常に信じていたいものですが現実はそう甘くないですね。過去の時点の方が正解だったりすることが多々ある。たぶんそこに気がついていける事とその時点に戻す勇気が必要なんですね。周りの声とか自分自身に捕らわれているとなかなか正しい道筋が見えてこない。とにかく音が欲しい。いつまでも弾いていたくなるような陶酔の一本を。貪欲に行きます。