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鳴るには物語

秋になってから工房に遊びに来るお客さんもちらほら。いい季節です。この日も年代物の外車に乗って隣町から素敵なご夫婦がみえました。

 

 

 

 

 

 

 

息のぴったり合った合奏を披露してくれました。いいな。ウクレレって。愛嬌ある生音が二つ同時に重なってとても心地良い…。

 

 

 

 

 

 

 

保育園の年中さんのうちの次女。

日曜日の工房にはちょいちょい親父の仕事を覗きにやって来ます…。

 

 

 

 

 

 

前回の記事は理想論中心でしたので今回は具体的な部分のお話です。今お借りしてるマーティンの研究。この鳴り方の秘密はどこにあるのか。実物を事細かに調べた事は無かったのでとても良い機会です。

 

 

 

 

 

 

 

 

心地良く鳴るウクレレの共通点を探す。これが目的なワケですが、オールドマーティンは最高にして最終目標。他に我が家には2台の「よく鳴る」ウクレレがあります。

八年前に参考にするために購入したナカニシと自分が四年前に製作したスタイル7です。この3本に共通しているところを観察します。

 

 

 

 

 

な〜にちゃっかり自分のウクレレ混ぜ混んでやがる…と、どうかお気を悪くなさらないで下さい。自分が作ったウクレレの中でも数パーセントは理想に近いものはありました。その僅かな数台のうちの一台がこれです。今後の参考にと手元にあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

マーティンのヘッドをじっくり見てみるとスリーブからペグポストまで高さがある分、実際にはヘッド角よりも緩い角度になっている。その角度を計測してみると10.5度。

 

 

 

 

 

 

 

ナカニシのヘッド。ポストからナットへの角度はやはり10.5度。中西さんはマーティンからお墨付きをもらった唯一のビルダー。ディテールが同じでも何ら不思議じゃない。ちなみに私の作るウクレレはそのナカニシウクレレを真似ているので今は全て10.5度です。

 
一般的な020から032インチくらいのゲージのフロロカーボン弦を張ることを前提として10.5度から11度あたりが恐らくヘッド側においてのベストテンションなんだと思います。ぶっといカマカ弦とか使わない限りですが。






続いてこっち。サドル側を見てみます。スリットからサドルに向かう角度。ここも緩めになってます。








スタイル7のブリッジ側もチェック。同じくスリットからサドルに向かう角度は低い。

 

 

マーティンもスタイル7もこの部分は低い立ち上がり。つまりヘッド側もブリッジ側もテンションはなるべくかけないように調整している。弾く人が弾き易いかどうかを判断するポイントとして弦の張り具合があります。音の出方の柔らかさも含めて出来る限り緩めに持っていくようにするのが名機に近づく重要な要素のようです。









マーティンの胴厚計測。ネック側で50mm。








ボトム側一番深いところで58mm。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナカニシも同様に計測。こちら側で53mm。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボトム側で58mm。ただしこのナカニシはコンサート。

マーティンはソプラノ。スケールサイズの違いもあります。









私のスタイル7は65mm…。

 

ボディの厚さは音の縦の広がり方に影響してきます。浅いと弾き手にとってモニタリングし易くなり、サイドホールがあるような感覚に近くなります。ボディが薄いと音の反射が速くなって軽快かつ明快なサウンドキャラクターになります。反対に胴厚が深いと聴き手側に音圧が届きやすくなる傾向があります。深さが音を外に放出するまでの猶予を与えるために少しマスクをかけたようなサウンドキャラクターになります。
事は単純には行かず、そこにそれぞれの板の材質と厚さという要因が関係してきます。薄いマホガニーで表裏側板が構成されていればたとえボディが薄かったとしてもこのオールドマーティンのように3弦の音圧を伴った上に明快な1弦のメロディノートがブレンドされた最高に贅沢なボディに仕上がってるわけですね。難しいのは同じマホガニーでも細かくみんな材質が異なっていることで、そこを上手く調理出来るかが職人の腕や耳の良さにかかってるんだと思います。その経験値が圧倒的に足りないから困ってるわけですが。







最後に表板の状態。ブリッジ周りに注目してみると若干の腹起き状態になっています。それくらい薄いということです。

 

 

 

 

 

 

 

ナカニシの表板の状態もチェック。写真で分かりにくいですがやはり若干の腹起きがあります。

こんなこと書いたらリペアマンに笑われますが…「少しぐらいの腹起き状態の方がよく鳴る」ことは事実として今目の前にあるウクレレ達が物語っています。そしてこれは故障ではない。徐々に腹起きが拡大していくようであればいずれブリッジの端を起点として割れが走り出すでしょう。でもそうならずに何年もの間この状態のままを維持してよく鳴っている。だからこれは故障ではない。






僭越ながらうちのウクレレも同じ状態で割れを発することなく維持しています。3台ともに贅肉を廃した表板と最小限の補強材だけで箱を成り立たせていると言えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく鳴るウクレレ達。共通点はヘッド(ナット)、ブリッジ(サドル)に余計なテンションをかけずに部材を限りなく余分な厚みを削ぎ落とすことでした。

胴厚に関してはサウンドキャラクターの好みによって変わってくると思います。
どう作るか。方針を決めるのは作り手の考え方次第です。その指針探しはやっぱり現物を調べるのが一番ですね。何年たっても名機に学ぶことは相変わらず多い。ウクレレ作りは奥が深いです。