· 

Old Martin

昨日のレッスン中の会話がきっかけで数年ぶりにヴィンテージマーティンを触る機会に恵まれました。なんかすっかり大事なことを忘れていました。昔はしつこいほどマーティンのことばかり追いかけていた。大須や御茶ノ水、梅田の楽器屋を巡ってホンモノのオールドマーティンを触らせてもらってました。買えなかったけど。とにかく触りまくった。重さや厚み、箱の中。弾いた感触。そこが出発点だった。山登りでガスに巻かれて方向を見失うと石積みのケルンを頼りに進むあれのように製作の方向性を見失ったと感じたときはまた大須に出掛け、なければ東京へ。とにかく触って感じることを繰り返していたあの頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の人生振り返ってみると不思議なほど壁にぶち当たる度にそれを乗り越えるヒントを与えてくれる人が必ず現れて来ました。今回も然り。急にじゃなくて、一年か二年くらい努力して良い結果が出ない中にあってふっと何処からかやって来る。どうしてなのかはわからない。特に誰かに内情を打ち明けてもいない、自分にしかわからないスランプ。まるで天のお導きのように助け船がやってくる。もしかしたら空の上から爺ちゃんが寄越したのかと本気で考えてしまうくらい有り難い経験が何度かありました。たぶんどんな物創りでも今より前進したいと強く願って仕事をしているのは同じだと思う。前進させようとして小さな変更を積み加えて行った先が失敗だったなんてことの方が圧倒的に多いとも。たぶん満点を出すことは一生ないにせよ、合格ラインを常に超えて行ける作り方と考え方を探してるんだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

いい楽器は理由がないんです。ほんとに。バフがけをみっちりやって鏡面仕上げのピカピカとかじゃないんです。マーティンを手に取ると何にも飾りっ気がないのがほんとの美だって諭されてしまう。持ったときに頭の中の予想と現実の差がなく何の違和感のない感触。手に取った時点で打ち解けてしまっている。そこが凄いんだけどマーティン本体は凄いんだって威張っていない。極め付けは当然音。理由がないんです。ほんとに。全くウクレレを知らない人でも遠くで聴いていても聴き惚れてしまう。一曲弾き終えたころにはその場の雰囲気を包んでいる。それがマーティンウクレレ。理由がない良さの理由を探してる。そりゃ難しいに決まってる。でも見つけたい。きっとどこかに答えがある。当時の良材と枯渇している現代のマホガニー。そこらへんの時代環境も超えて20世紀の名機を超えた21世紀の名機を作る。いつか22世紀のウクレレ愛好家がオールドマーティンと僕のマホガニーを並べて、「こっちのほうが優っている」と評価される日を、もう自分がいない死んだ後の世の中の話だけどそれを夢見て今を生きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝、娘らを保育園に送って来た帰り道にちょっとだけお気に入りの喫茶店に寄って弾いて来ました。「見上げてごらん夜の星を」をポロンポロンと弾いていたら周りの人が口々に「いい音ですね」と言う。分かるんです。オールドマーティンの音の良さはウクレレを知らない人でも虜にしてしまう。音量じゃない。それこそが琴線に触れる音色。機械じゃ決して作れない。現行モデルにはないNCルーター出現以前のナザレスの職工達が作っていたオールドマーティン。その時代環境にしか人の心の琴線にふれるマーティンはないんです。タイムマシンで当時のナザレスの工場のまさに作っている現場に飛んで行けたらと思います。手曲げの側板。汗にまみれたエプロン。夢と遊び心の詰まったemployモデル。ほぼ全てのモノがいろんな国の知らない誰かの操作でオートメーションによって作られる現代にあって、ウクレレは、人の心の中にある「琴線」にふれることのできるウクレレは…それを馬鹿みたいに追っかけてる人間にしかもう作ることができない。そのことを、その出発点を置き去りにしていたことに気がつきました。硬く冷たいウクレレはいらない。どこまでも柔らかく暖かい、軽やかな、決して音は大きくないけど人の心の中の琴線にふれ得る優しい音色を求める仕事。それが自分の仕事だってことをようやく思い出しました。斎藤さん、貴重なウクレレをお貸し頂きまして本当にありがとうございます。心より感謝します。きっとオールドマーティンを超えてみせます。スタイル7M、どうか首を長くしてお待ち下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

マーティンソプラノにはトーンブレイスがないんですがそれでも成り立っています。僕のソプラノやソプラノロングには一本だけブレイスがあります。まだ硬い。表板に余分が、削ぎ落とす必要がある贅肉が存在する。バインディングをセルロイドから木製に変えたことによって外周部の強度が増してしまったことにも最近気がついてきました…というかそのことを今の今まで見落としていました。1.5ミリ厚のローズウッドを一周ボディに巻いてタイトボンドで完全に圧着させてボディを補強させている。一番外側の強度が増したならば内側のバーブレイスはそれに従って半分以下の高さまで強度を落とすべきだった。以前より表裏板の厚みを意識的に薄くしているにもかかわらず硬い音になっていたことの理由はもしかしてウッドバインディングにもその原因があったのかもしれない…。ギターを作るならそんな小さなことは大して影響しないでしょう。そもそも表板が2.5から3ミリ近い厚みがある上に剛直なブレイス機構を持つギターがセルロイドのバインディングかウッドバインディングかなんてあまり影響ないと思います。ウクレレは違う。ほんの少しの部材の変化が何倍にも影響を及ぼし合っている。もっと細かく、精緻に部材一つ一つに神経を使っていかなきゃ卵の殻みたいなボディにはならない。2014年から15年ごろはイケイケでたまたま良いものが出来ていただけでした。壁にぶち当たっている今。そこを突き詰め直す時期に来てるのかもしれないです。