
4年前に打ち出したテーマ、ジャズに特化させたウクレレ。スタート時にはテーマ、方向性だけはきちんと決めてかかりました。しかし実際のところ何をどうすればそのテーマに完全に合致したものになり得るのか試行錯誤を重ねながらもについ最近まで答えが見出せませんでした。昨年一年間の80本のライブの中でマイルドで深いサウンドの出し方を探り続けました。
正確なジャズ理論に沿った演奏はもっと先でも良い、とにかく出したいサウンドを見つけたい。そう思ってライブの現場で製作の方向性を探した一年間。それでもやはり中々見つからない。そんな時、スタイル9ユーザーさんが「面白いから弾いてみて」と工房にやって来ました。変則的な張り方のギターチューニング仕様スタイル9。最初は正直あまり期待していませんでした。しかし。それこそまさに探し続けて来たジャズテイストそのものでした。さらにギターチューニングだからといって既存のギターそのものとは全く違う、その上バリトンウクレレのようなボヨンボヨンとしたサウンドでもない。凛としたテンションにきちんと張りのある深い甘いサウンド。聴き手の心に直結する旋律。それが昨年一年間に培った演奏方法が交わり、まさに求めて来たものがそこにありました。
ラベルの一文、"The fine uke for
jazz"がここにある。自分だけの努力では決して到達することが出来なかった音がユーザーさんの工夫によって見出される。こんなドラマがあるのか。私はほんとに心から感動しました。楽器の音が弾き手の心を揺さぶる。楽器の音が弾き手の旋律を自然と導く。ここまで音に感動があると余計な弾き方は一切いらなくなる。どんな曲でも深みを伴う。ジャズは弾き手の心を自由に即効表現するのが根源であり楽器がそれを最大限に導いてくれるならばそれこそまさに工房が目指したテーマに合致します。年初に苦し紛れの記事を上げてしまった自分の未熟さを認めざるを得ませんでした。弾き手、聴き手の双方の心をその中心にある楽器が揺さぶる。これは製作家として幸せだと感じずにいられるわけがない。
計算上、このギターチューニングにおける最適なテンションを得るためにはやはりスタイル9テナーだとあと一息スケールが足りません。最適化すればさらに深み、甘さを得ることができるはず。テナーは432㎜。EBGDにしたときに最も安定したテンションを得るために475㎜あたりが理想となるはずですので今年の夏あたりにそれに昇華させた最終モデルを試作します。名付けて…
Style-10 tenor-long model
そのユーザーさんは私の製作したウクレレを3本所有されてます。ソプラノ、コンサート、テナー。こうも言っておられました。「もともと他のウクレレにはない甘く深いサウンドはどのモデルにも共通してあるよ。ギターチューニングはただそのカラーをよりはっきりと全面に引っ張り出したんだよ。」
そうか、と思いました。探し続けていた音は実はすでに自分の製作して来た中に個性としてあったんだ。あまりに新しい価値観を求め過ぎて見えてなかったんだ。そのことに気づきました。これまでのモデルは基本的なウクレレらしさを保持しながらも一味違った甘いサウンドが持ち味だと感じています。テナーロングの音はバリトンウクレレともクラシックギターとも違う、今までの延長上にありながらも新しい音になると思います。とても楽しみです。
Ancestor's Ukulele builder
Hajime Sakai
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