全体像と段取り

昨日、無事にオーナー様の手に渡って行ったスタイル9。今回のテナーもバランス良く仕上げることが出来、ほっとしています。個人、ショップオーダーとも同様に一台一台ごとに完成に至るまでの緊張感があります。同じ工程をまとめて進めればもっと早く作れますが私の場合は個体ごとにイメージを形にして行くタチです。段取りが出来ている所までを一本ごとに進めて行くので工程が最初から最後まで同時になることは木工ではあまりありません。塗装で初めて数台が揃います。「ここまでは完全に頭の中で数値化出来ている」と踏んで作業に入ります。「数値化」というのは私の考え方であって一般的なものではありません。例えば製材工程ならば材ごとの性質をよく考慮して最終的な仕上がり厚から逆算して行きます。表板が最も段取りを煮詰める必要があり、最終1.8ミリならば2.2ミリ厚からスタートします。
このスタイル9のロゼッタのようにハワイアンコアをくり抜いたものをマホガニートップに嵌め込む場合、つまりロゼッタ材を表板に嵌め込む場合はロゼッタ材の厚み分を考慮します。最終仕上がり厚1.8ミリの中で0.3ミリの余裕を残してロゼッタ材が1.5ミリ分嵌め込むようにしています。段取りとしてはまず、表板2.2ミリ厚の段階で1.9ミリ厚のロゼッタ材を嵌め込みます。次にコアの周りを0.5ミリ幅、1.5ミリ高のメイプルとローズを巻くための溝を掘ります。ロゼッタの象嵌が全て完了したらサウンドホールをくり抜きます。サウンドホールのエッジを表裏とも取り、ボディ外周の罫書き線をカット。その後にブレイシングを貼り、表板が出来上がります。箱になった時点で表板全面を0.4ミリ研磨してそれまでの作業傷を全て落とします。これでおよそ1.8ミリ厚のトップに仕上がります。
こういった具体的な段取りの数値化と制作前の全体像をイメージすることの二つが私のウクレレ製作の二本柱です。数値は今までの経験則によっていますがやはりここ一年間でもかなり変わって来ました。ウクレレを作り始めた頃は音量ばかりを追いかけていたような気がします。今は音量は平均点で良いと考えています。大切にしているのは音量バランスと「深みのある音」です。弦が弾かれた音がボディから同時に全て放出されてしまうことのないようにする。音に余韻があるためにどうするか。そこがテーマです。
このスタイル9では新たな改良を加えました。ブリッジ弦止めの幅を広げ、さらに弦穴の位置を下端から3.0ミリ(ブリッジ厚は6.5㎜)に下げました。幅を広げた目的はダダリオプロアルテ弦のような太いゲージを結んだ際になるべく撓まないようにするため、弦穴を下げた目的はサドルにかかるテンションを上げるためです。弦穴を下げると同時に弦穴出口からサドルに向かう間のどこにも弦が触れないようにするために今まで直線で傾斜していたサドル山の面をえぐり、湾曲しながらサドルへ向かう形に変えました。穴位置を下げてせっかく稼いだテンションが一箇所でも突っかかれば無駄になります。テンションがキツければサドルを下げて対応できますがそもそものテンションパワーがなければ調節できる範囲も狭まることに気が付いたことからの改良です。
これも大は小を兼ねる考えでしょうか。ストラトキャスターのようにエレクトリックギターのブリッジならば後からユーザーが幾らでも調節できるわけですが古典的なウクレレではそうはいきません。製作時点で製作者がテンションの振り分け方法を考えておく必要があります。これも段取りの一つなのかも知れません。まだまだ改善すべき点だらけですが一歩ずつ進化して行ければと思います。一般客ならば言われなければ気が付かないような変化が実は細々とある製作家のウクレレ。それも手工ウクレレの魅力だと思います。