楽器の本領を探すこと

昨年の11月に試作機が完成したStyle-9 tenor model。


世にたくさんのテナーウクレレが存在する中でうちのテナーモデルをどういった方向付けで制作して行くべきかを昨年秋の設計段階から考えていました。目指したのは高いレベルでの実戦力を備えたテナー。とことんライブで本領を発揮するテナー。実現するためには自分が実戦で使い倒して実感と反省を洗い出すことしかありません。それにはある程度の試用期間を要します。手工家のテナーにもそれぞれに多彩なキャラクターがあります。ハワイのテイストを全面に押し出したもの。生音をとことん追求したもの。カマカの完全コピーモデル・・。うちのテナーはそんな激戦区の中でどういう特異性を持たせるべきか。自分が他の製作家と比較して格段にライブの回数が多いことをそのまま活かす方向でテナーを作ることにしました。しかし11月時点ではそれが一体何をすればいいのかほとんどわかっていませんでした。



 試作機は完成からなんと1週間後に鳥羽ライブで実戦投入。もちろん電気的な部分の作り込みは全くの未完成でした。とりあえずコンサートで使ってきたコンタクトタイプのピックアップだけを仕込んでAC-33から音を出す。当然良い結果など出るわけもありません。あのときのライブでたくさんの課題を持つことが出来たのは後の成長に間違いなく繋がりました。鳥羽終了後はハッキリ言ってどう改善しようか何の道筋も立たないくらい茫然としたことを思い出します。



   今は、テナーでの良いライブ音の作り方の基礎は理解出来てきました。もっとも11月完成当初はまだライブでの音も中途半端にアコースティックに拘っていたのであくまでも生音に近いコンタクトタイプピックアップを前提にライブ音を構成して行くことを考えていました。それまでのように自分で選んだ環境のみでライブするならばそれで良かったものの、いろんなイベントやライブに出演するようになって初めて壁にぶち当たりました。



 ハウリング。大きなイベント会場での音量の中で他の楽器とやるとサウンドホールから入り込んだ音がボディ内で回り、ピックアップと喧嘩してハウリングを起こしてしまったこと。そこでハウリングに強いアンダーサドルタイプに変えました。予想はしていましたがやはりコンタクトタイプより圧倒的にピエゾ臭い音になりました。



 どうにかならないか何度もいろんなパターンで試しました。2カ月かけてやっと納得いくセッティングがわかりました。サドル高を上げて1弦側に荷重が行くようにピックアップを仕込む。圧が強いほどピエゾ臭さは和らぐことに気が付きました。ピエゾ音であっても音の出方や伸び方次第で人が聴いていて心地よい音は作れることに気がつきました。ピエゾを使ってプリアンプとアンプを上手く調合していけば良い空間音を作れるんだということに段々と気がついて行ったのは先月くらい。



 複産的に生音の鳴り方にも変化が起きました。11月完成当初に1弦の鳴りが大人しいなと感じていたものがちょうど良いバランスに変わりました。つまり完成直後のセッティングは楽器の持っていたポテンシャルを十分に引き出せていなかったわけです。電気と生音は別の話ではなく密接に関係したものであることにそのとき実感を伴って理解しました。考えてみればそりゃそうですよね・・。ピックアップは現物を信号に変えている装置なわけですから同一のものに決まっている。そんなことにすら気がつかなかった自分を恥じました。



 ピックアップの仕込みは整いました。その次の課題はプリアンプでした。パッシブには必携アイテムのプリ。パラアコに全く慣れていなかった私はやはりこれも暗中模索していくわけです。Hookさんに電話で聞いたり自分でいろいろ試したり・・。ゲインの取り方からノッチの使い方、トレブル・プレゼンスの応用方法などなど学ぶことだらけでしたが一つずつ覚えていきました。やっと自分の納得行くプリまでのセッティングが完成したのは今年の3月ごろだったでしょうか。



 その後はAC-60側のセッティングをカフェライブの度にいろいろと試しました。アンプまで納得行く音作りが完成したのはまさに先月。この半年間、カフェライブは毎週行った上にイベントでのライブでも実戦で音作りをしてきました。5月。やっと自分が欲しいと思えるテナーになりました。自信を持って自分のテナーを作って行くことができます。



 楽器となって生み出された直後は人間でいうところの赤ん坊のようなものだということを今回自分でライブでの音作りにまで拘った中で実感しました。自分の表現して行きたい音を積極的に探す努力は必ず楽器自体のポテンシャルを引き出すきっかけになります。電気に限らず生音で使っていくにせよどんな音を求めて行くのかによって生まれたての楽器を導いていくのはユーザー本人です。楽器の持っている本領を実は発揮しきれていないかもしれない。あるいは発揮させるための方法が他にあるのかもしれない。もっとこうしたいという課題を見つけてそれに見合ったセッティングを探し、製作者や調整できる人に相談することが良いと思います。



 ピックアップはコンタクトであれば貼り付ける位置が1ミリ変わるだけでもアンプ音がガラリと変わる。アンダーサドルでも同じように圧のかけ方一つ違えばアンプ音はガラリと変わる。その先のプリアンプやアンプでの設定までいくらでも音の作り方のパターンが存在する。こうなるとピックアップ単体の評価やアンプ単体での評価はある程度のところまでは一般論があったとしても自分次第で良くも悪くもなるということになります…。メジャーなピックアップを推すわけじゃないですがそれでも私ならばフィッシュマンのAG-ukulele がアンプまで含めての音作りがしやすいと思います。プリアンプ搭載型ピックアップはその先の設定をよく考慮しないと信号の倍々ゲームになり100の二乗のような状況でアンプに送り込むことにもなります。単純にパッシブピックアップの信号を純度の高い良質なケーブルでプリアンプに送るのがわかりやすいと個人的には思います。



 …でも忘れちゃいけないのは一番ダイレクトに音が変わるのは当然弾き方であることです・・。右手左手それぞれの力加減や味付けの仕方ひとつで同じ曲でも多様に変化します。全部含めて音作りは面白い!