手工道具

二年前だったかな。50過ぎくらいの男性が夕刻に大きなカメラ道具バッグと高そうなカメラを持ってやって来たのは。ホームページを見て工房の中の写真を撮りたくなったと仰るので了承しました。特に彼は職人道具を接写することが大好きだと言って一つずつ鑿や鉋をマニュアルで撮影していました。あのときは普段毎日自分が使っている道具の何処に惹かれてシャッターを切っていらしたのか理解出来ませんでした。しかしこの二年間、アマチュア時代とは全く異質の数え切れない試練を共にした道具達が今になってとても愛おしい物に変わりました。プロ製作家に駆け出したばかりのあの頃には分からなかった道具の価値をあの男性は見出していたからこそ、陽も翳り出した狭い工房の中で仕切りにシャッターを切っていたのかも知れません。
野球選手が愛用のグローブやバットを大切にするように、小説家が使い古した万年筆を大切にするように私も職人道具をもっともっと愛用して行かなければ成長には繋がらないことを最近改めて反省しています。先日の記事にも書いたように私の工房には大型機械工具が全くないので手工作業が殆どです。毎日使う中でも刃先の調子が変わります。愛用道具が手先の一部と化しているヤイリギターのマスタークラフツマン、小池のケンさんに少しでも近付けるように道具を労わる心構えがいつも大切ですね。私が何の縁も所縁もない岐阜に来た理由はただ一つ。ケンさんの存在です。ヤイリが好きだということ以上にケンさんの仕事を尊敬しています。半世紀に渡ってギター作りに没頭する人生を「幸せだ」と言っているその生き様が、遠く関東にいた自分の人生を動かしました。
   24歳、東京での会社員生活にピリオドを打ち単身名古屋の楽器製作専門学校へ。それから11年後。ようやく楽器製作家として船出し、豆粒みたいな存在であっても憧れのケンさんと同じ職人人生のステージに立ったことを嬉しく思います。東京駅の夜行バスに乗ったあの時から13年の月日が流れました。素敵な家族、やりたい仕事に全てをかけることが出来る幸せを私にウクレレをオーダーして下さる皆様に対して全ての知識と経験を持って全力で恩返しして行きたいと強く思います。


2014年ヤイリギター  ケンさんのアトリエにて